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落語「千両みかん」に学ぶマーケティング

価値とは、いったい何でしょうか。

商品やサービスを考える時、私たちはつい「いくらで売るか」「相場はいくらか」「高いか安いか」という価格の話から考えてしまいます。もちろん価格は大切です。しかし、本当の価値は、金額だけで決まるものではありません。

同じものでも、ある人にとっては何でもないものが、別の人にとってはどうしても欲しいものになることがあります。普段なら安く買えるものが、ある状況では信じられないほど高い価値を持つこともあります。

そのことを、とても分かりやすく教えてくれるのが、落語の「千両みかん」です。

自分たちが売りたいものをどう売るかではなく、相手にとってそれがどんな意味を持つのかを考えること。

そこに、マーケティングの本質があるのだと思います。

みかん一つが、千両の価値を持つ時

「千両みかん」は、夏の暑い時期に、病に伏せた若旦那がどうしてもみかんを食べたいと言い出す話です。

今でこそ、みかんは季節を問わず比較的手に入りやすい果物ですが、昔の夏にみかんを手に入れることは簡単ではありません。番頭があちこち探し回り、ようやく見つけたみかんには、とんでもない値段がついていました。

普通に考えれば、みかん一つに大金を払うなどあり得ないことです。

しかし、若旦那にとっては、そのみかんがどうしても必要だった。周りの人にとっても、若旦那の命に関わるかもしれない大切なものだった。つまり、その瞬間、その人たちにとってのみかんは、ただの果物ではなくなっていたのです。

価値は、商品そのものだけで決まるのではありません。

誰が、どんな状況で、どれほど必要としているのか。その条件によって、価値は大きく変わります。

価値は、受け取る人の中にある

マーケティングを考える時に大切なのは、作り手側の価値だけで物事を見ないことです。

作り手は、自分たちの商品やサービスの機能、品質、こだわり、製法、実績を伝えたくなります。もちろん、それらは大切な要素です。しかし、それがお客様にとってどんな意味を持つのかまで考えなければ、価値は伝わりません。

みかんそのものを見れば、ただのみかんです。

しかし、病気の若旦那にとっては、どうしても食べたいものだった。家族や店の人たちにとっては、若旦那を元気にするための希望だった。その背景を知ると、みかんの意味はまったく変わります。

これは、ビジネスでも同じです。

ある人にとっては不要なサービスでも、別の人にとっては今すぐ必要なものかもしれません。ある会社にとっては小さな改善でも、別の会社にとっては売上や採用、信頼に関わる大きな課題かもしれません。

価値は、商品側にだけあるのではなく、受け取る人の状況や気持ちの中にあるのです。

高いか安いかは、必要性で変わる

同じ金額でも、人によって高く感じる場合と安く感じる場合があります。

たとえば、まだ困っていない人にとって、ホームページのリニューアル費用は高く感じるかもしれません。しかし、問い合わせが減っている、採用応募が来ない、古い情報のまま信用を失っているという会社にとっては、その費用は単なる出費ではなく、将来のための投資になります。

広告も同じです。

ただ「チラシを作る」「ホームページを作る」「動画を作る」と考えると、価格だけで比較されやすくなります。しかし、それによって誰に届くのか、どんな印象を持ってもらえるのか、どんな行動につながるのかまで考えると、価値の見え方は変わります。

人は、物そのものにお金を払っているようで、実際にはその先にある安心や期待、解決、満足にお金を払っています。

「千両みかん」で言えば、若旦那たちが求めていたのは、みかんという果物だけではありません。そこには、どうしても食べたいという願いがあり、元気になってほしいという周囲の思いがありました。

だからこそ、ただのみかんが大きな価値を持ったのです。

相場ではなく、相手の価値観を見る

マーケティングでは、相場を見ることも必要です。

同業他社はいくらで売っているのか、一般的な価格帯はどのくらいか、どんな商品が選ばれているのかを知ることは大切です。しかし、相場だけを見ていると、本当の価値を見失うことがあります。

なぜなら、お客様が買う理由は、価格だけではないからです。

安いから選ぶ人もいれば、安心できるから選ぶ人もいます。近いから選ぶ人もいれば、信頼できる担当者がいるから選ぶ人もいます。早く対応してくれるから選ぶ人もいれば、自分の悩みを分かってくれたから選ぶ人もいます。

つまり、価値は人によって違います。

すべての人に同じ価値を伝えようとすると、言葉はぼやけます。誰にとって、何が価値なのかを考えることで、伝えるべき内容は変わります。

価格を下げる前に、本当に考えるべきなのは、その人にとっての価値は何かということです。

マーケティングは、価値を翻訳する仕事

良い商品やサービスを持っていても、その価値が相手に伝わらなければ選ばれません。

作り手側は「これは良いものです」と思っています。しかし、お客様は「それが自分にどう関係するのか」を知りたいのです。だから、マーケティングに必要なのは、自分たちの価値を相手の言葉に翻訳することです。

機能を伝えるだけではなく、その機能によって相手がどう助かるのか。実績を伝えるだけではなく、その実績が相手にどんな安心を与えるのか。こだわりを伝えるだけではなく、そのこだわりが相手の満足にどうつながるのか。

この翻訳ができると、商品やサービスの見え方は変わります。

みかんが必要でない人に「高級なみかんです」と言っても響かないかもしれません。しかし、どうしてもみかんを必要としている人にとっては、その一つが大きな意味を持ちます。

大切なのは、誰にとっての価値なのかを見つけることです。

価値とは、その人の状況の中で決まる

「千両みかん」が教えてくれるのは、価値は固定されたものではないということです。

同じ商品でも、時代、季節、場所、状況、相手の気持ちによって価値は変わります。だから、マーケティングでは、ただ商品を見るだけでは足りません。

その人は今、何に困っているのか。
何を求めているのか。
どんな不安を持っているのか。
何にお金を払う意味を感じるのか。

そこを見なければ、本当の価値は見えてきません。

価値とは、作り手が決めるものではなく、受け取る人の心の中で決まるものです。だからこそ、ビジネスでは相手の価値観を知ることが大切になります。

自分たちが売りたいものをどう売るかではなく、相手にとってそれがどんな意味を持つのかを考えること。

そこに、マーケティングの本質があるのだと思います。

一つのみかんが、ある人にとってはただの果物であり、ある人にとっては千両の価値を持つ。

その違いを見つめることが、価値を考える第一歩なのだと思います。