mashima
決定回避の法則
メニューが3種類しかないお店なら、それほど悩まず注文できます。
ところが、似たようなメニューが50種類並んでいたらどうでしょう。
最初は「選べるものがたくさんあっていい」と思うかもしれません。しかし、見比べているうちに違いが分からなくなり、だんだん選ぶこと自体が面倒になってきます。
商品も同じです。
3つくらいのプランであれば比較できますが、10種類、20種類と並べられると、「結局どれが自分に合っているのだろう」と迷います。
そして、人は迷いすぎると選ばないことがあります。
これが「決定回避の法則」と呼ばれる考え方です。
選択肢が増えれば、その分だけ満足度が高くなるとは限りません。選ぶために必要な情報や判断が増えすぎると、決定することそのものを避けてしまうことがあります。
この心理は、広告やチラシ、Webサイトを考えるうえでも、とても重要です。

選べることと、選びやすいことは違う
商品やサービスを提供する側からすると、できるだけ多くの選択肢を用意した方が親切に感じます。
いろいろなお客様に対応できるように、商品を増やす。料金プランを細かく分ける。ホームページにできるだけ多くの情報を掲載する。
確かに、選択肢があること自体は悪いことではありません。
問題は、その違いをお客様が理解できるかどうかです。
提供する側には、それぞれの商品の違いが分かっています。しかし、初めて見る人にとっては、どれも似たように見えることがあります。
料金が少しずつ違う。機能も少しずつ違う。説明を読めば違いはあるけれど、自分にはどれが必要なのか分からない。
こうなると、選択肢の多さはメリットではなく負担になります。
選べる状態をつくることと、選びやすい状態をつくることは、同じではありません。
迷う時間が長くなるほど、行動から離れていく
Webサイトを見ていて、料金プランがたくさん並んでいるページに出会うことがあります。
最初は比較しようと思って読み始めます。
しかし、機能や条件が細かく違っていて、自分に必要なものが分からない。何度も表を行ったり来たりしているうちに、「あとで考えよう」とページを閉じてしまう。
似た経験をしたことがある人もいると思います。
これは、その商品に魅力がなかったからとは限りません。
選ぶことに疲れてしまったのです。
人は何かを決める時、頭の中で比較しています。
価格はどうか。自分に必要か。他の商品との違いは何か。失敗しないか。もっと良いものがあるのではないか。
選択肢が増えるほど、この判断も増えていきます。
ある程度を超えると、「決める」という行動そのものが面倒になります。
広告では、この状態をできるだけつくらないことが大切です。
ホームページでは「全部見せる」が正解とは限らない
ホームページをつくる時、お客様から「この情報も載せたい」「これも説明したい」と言われることがあります。
会社として伝えたいことは、たくさんあります。
サービスの特徴、料金、実績、設備、会社の歴史、技術力、スタッフ、商品一覧、よくある質問。
どれも大切な情報です。
だからといって、最初の画面からすべてを同じ強さで見せてしまうと、ユーザーはどこを見ればよいのか分からなくなります。
情報が多いことが問題なのではありません。
情報の優先順位がないことが問題です。
まず何を知ってほしいのか。その次に何を見てほしいのか。詳しく知りたい人には、どこから情報を見てもらうのか。
こうした整理が必要です。
ホームページは情報を置く倉庫ではありません。
必要な情報へ案内する場所です。
「どれでも選べます」より「あなたならこれ」
人は、自分で自由に選びたいと思う一方で、選ぶ基準も欲しがっています。
たとえば、料金プランを3種類用意したとします。
ただ価格と機能だけを並べるよりも、「初めての方におすすめ」「基本的な機能が必要な方向け」「しっかり運用したい企業向け」と説明されていた方が、自分に合ったものを見つけやすくなります。
これは、無理に特定の商品へ誘導するという意味ではありません。
選ぶための基準を渡すということです。
商品が多いのであれば、利用目的から探せるようにする。サービスが複雑なら、相談内容から適したものが分かるようにする。
広告やWebサイトでは、選択肢を見せるだけでなく、「どう選べばよいか」まで設計する必要があります。
良い案内とは、情報を増やすことではなく、判断を楽にすることでもあります。
問い合わせでも選択肢を増やしすぎない
決定回避は、商品選びだけで起こるものではありません。
問い合わせフォームでも起こります。
問い合わせ内容を細かく分類しすぎたり、多くの入力項目を求めたりすると、利用者は途中で面倒になってしまいます。
制作する側からすると、予算や希望納期、業種、会社規模、必要なサービスなどを最初から聞いておいた方が便利です。
しかし、お客様はまだ「ちょっと相談してみようかな」という段階かもしれません。
その段階で多くのことを決めてもらおうとすると、問い合わせる前に疲れてしまいます。
まず相談してもらい、必要なことはあとから聞けばよい場合もあります。
相手に求める決定の数を減らすことも、使いやすい仕組みをつくるためには大切です。
チラシも、伝えたいことを詰め込みすぎない
チラシでは、限られた紙面にいろいろな情報を入れたくなります。
せっかく印刷するのだから、この商品も載せたい。別のサービスも紹介したい。会社の強みも伝えたい。キャンペーンも知らせたい。
結果として、たくさんの情報が同じ紙面に並びます。
しかし、見る人からすると、何を一番伝えたいチラシなのか分からなくなることがあります。
広告には、情報を足す仕事と同じくらい、情報を削る仕事があります。
今回の広告では何を伝えるのか。
誰に何をしてほしいのか。
その目的が決まれば、必要ではない情報も見えてきます。
すべてを一枚で説明しようとしないことです。
興味を持った人にはWebサイトを見てもらえばよい。詳しい説明が必要なら問い合わせてもらえばよい。
広告には、それぞれ役割があります。
選択肢を減らすことは、不親切ではない
商品やサービスを絞ると、「選択肢が少なくて不親切なのではないか」と思うかもしれません。
でも、本当にそうでしょうか。
レストランで「おすすめはこれです」と教えてもらえると、安心して注文できることがあります。
専門店で「この用途ならこちらが合っています」と説明されると、決めやすくなります。
私たちが専門家に相談する理由の一つも、ここにあると思います。
分からないことを、自分だけで全部判断しなくてもいい。
選択肢を整理し、自分に合ったものを提案してもらえる。
それ自体がサービスです。
制作会社の仕事でも同じです。
「何でもできます」と言うだけでは、お客様は何を頼めばいいのか分からないことがあります。
お話を聞いたうえで、「今回はホームページ全体を変えるより、このページを直した方がいいと思います」と提案する。
そうした判断を手伝うことにも価値があります。
比較させすぎると、価格だけが基準になる
選択肢が多い時に起こりやすいのが、判断基準が分からなくなることです。
違いが理解できなければ、最終的には一番分かりやすい数字である「価格」で比較されやすくなります。
本来は、品質やサポート、使いやすさ、対応力などにも違いがあるかもしれません。
しかし、それが整理されずに多くの商品が並んでいると、お客様から見れば価格くらいしか比較できません。
だから、選択肢を提示する時には、違いを明確にする必要があります。
安いもの、高いものと並べるだけではなく、それぞれが誰に向いているのかを伝える。
そうすることで、価格以外の価値でも判断してもらいやすくなります。
「考えなくても分かる」に近づける
良いデザインや良い情報設計は、人に考えさせないという意味ではありません。
大切な内容については、しっかり考えてもらう必要があります。
ただし、「どこを見ればよいのか」「どれを選べばよいのか」「次に何をすればよいのか」といった部分で、必要以上に悩ませないことです。
ユーザーの頭は、商品やサービスの価値を理解するために使ってもらう。
操作方法や選択肢の整理で疲れさせない。
その考え方は、Webサイトでもチラシでも同じです。
分かりやすさとは、説明を簡単にすることだけではありません。
決めやすくすることでもあります。
決定回避の法則から考えるデザイン
決定回避の法則は、人は選択肢が増えすぎると、かえって決められなくなることがあるという考え方です。
商品やサービスを提供する側は、どうしても「たくさん用意すること」に目が向きます。
しかし、利用する側に必要なのは、たくさんの選択肢ではなく、自分に合ったものを迷わず見つけられることかもしれません。
これは、デザインにもマーケティングにも共通します。
何を見せるかだけでなく、何を見せないか。
何を選ばせるかだけでなく、何をあらかじめ整理しておくか。
どんな情報を加えるかだけでなく、どんな迷いを取り除くか。
そこまで考えることで、広告やWebサイトは使いやすくなります。
私たちの仕事は、選択肢を増やすことだけではありません。
相手が自分に合った答えへたどり着きやすいように、情報を整理することでもあります。
迷わせない。
でも、押しつけない。
必要な選択肢を残しながら、選ぶための基準を分かりやすくする。
それが、決定回避の法則から考えられる、伝わるデザインやマーケティングの大切な考え方なのだと思います。
