mashima
マッチングリスク意識
ホームページを見て、「この会社、良さそうだな」と思った。
制作実績もきれいだし、説明もしっかりしている。
でも、問い合わせボタンを押すところで少し迷う。
「自分のような小さな会社でも対応してくれるだろうか」「予算が合わなかったらどうしよう」「相談したら、そのまま契約しないといけない雰囲気にならないだろうか」。
商品やサービス自体に興味はあるのに、「自分に合わなかったらどうしよう」という不安によって行動できなくなることがあります。
こうした購入前の不安を、マーケティングでは「マッチングリスク意識」と呼ぶことがあります。特に、実際に買ったり利用したりするまで、自分に合うかどうか分かりにくい商品やサービスほど、この不安は大きくなりやすいと考えられます。

「欲しくない」のではなく「失敗したくない」
お客様が買わない理由を、私たちはつい「商品に魅力がなかったから」と考えてしまいます。
でも、実際にはそうとは限りません。
欲しいと思っている。興味もある。価格にもある程度納得している。それでも決められない。
その理由が、「買ってから後悔したくない」という不安であることがあります。
洋服ならサイズが合わなかったらどうしよう。飲食店なら、せっかく入ったのに自分の好みではなかったらどうしよう。ホームページ制作なら、高い費用を払って思っていたものと違ったらどうしよう。
お客様は商品そのものだけを見ているのではなく、購入したあとの自分まで想像しています。
そこで不安が大きくなると、最も安全な選択である「買わない」「問い合わせない」に戻ってしまいます。
サービス業ほど「買う前に分からない」
私たちのようなデザインやホームページ制作の仕事は、マッチングリスク意識が大きくなりやすい仕事だと思います。
完成した商品を店頭で見てから買うことができないからです。
どんなデザインになるのか、話をきちんと聞いてくれるのか、自分たちの会社を理解してくれるのか、修正にはどこまで対応してくれるのか、完成したあとも相談できるのか。
実際に仕事をしてみなければ分からないことがたくさんあります。
だから、制作会社側が「うちは良いデザインをつくります」と言うだけでは、お客様の不安はなくなりません。
むしろ必要なのは、「依頼すると、どんな流れで仕事が進むのか」「どこまで一緒に考えてくれるのか」を見せることです。
実績は、上手さを見せるためだけではない
ホームページに制作実績を掲載する理由も、単に「こんなデザインができます」と見せるためだけではありません。
自分と似た会社の事例がある。同じくらいの規模の企業と仕事をしている。自分が依頼したい内容に近い実績がある。
そうした事例を見ることで、「自分たちでもお願いできそうだ」という安心が生まれます。
つまり、制作実績には技術力を見せる役割と同時に、マッチングリスクを下げる役割もあります。
大企業の立派な実績ばかりを並べるよりも、小規模な会社や地域のお店など、さまざまな事例を見せた方が相談しやすくなる場合もあります。
見る人が、「自分にも近い」と感じられることが大切です。
お客様の声は「自分の場合」を想像する材料になる
口コミやお客様の声も同じです。
「とても良かったです」という感想だけではなく、「初めてホームページをつくるので何を準備すればいいか分からなかった」「文章も一緒に考えてもらえたので助かった」「小さな修正でも相談しやすかった」といった具体的な声があると、同じ不安を持っている人にとって参考になります。
お客様の声は、会社を褒めてもらうためだけのものではありません。
これから依頼する人が、「自分の場合はどうなるだろう」と考えるための材料でもあります。
過去のお客様が、どんな不安を持っていて、それがどのように解消されたのか。
そこまで伝わると、単なる評価ではなく、これから相談する人への安心材料になります。
価格が分からないことも不安につながる
「詳しくはお問い合わせください」としか書かれていないサービスがあります。
もちろん、内容によって料金が変わる仕事では、すべての価格を公開することは難しいと思います。私たちの仕事もそうです。
ただ、何も分からない状態では、「問い合わせたら、とても高い金額を言われるのではないか」という不安が生まれます。
正確な金額を出せない場合でも、「このくらいの内容ならこの程度から」「何によって費用が変わるのか」「見積もりまでは費用がかからないのか」といった判断材料を伝えることはできます。
価格を見せる目的は、安さを伝えることだけではありません。
問い合わせる前の不安を少し減らすことでもあります。
「無料相談」でも不安は残る
ホームページで「無料相談はこちら」と書いてあっても、それだけで問い合わせやすくなるとは限りません。
無料相談をしたら営業されるのではないか。断りにくくなるのではないか。まだ何も決まっていない段階で相談していいのか。
お客様は、そんなことまで考えています。
だから、「まだ内容が決まっていない段階でも大丈夫です」「相談後に必ずご契約いただく必要はありません」といった一言があるだけで、受け取り方が変わります。
Webサイトでは、このような小さな文章が意外と重要です。
サービス内容を詳しく説明することも必要ですが、問い合わせる人が何を不安に感じているのかまで想像することが大切です。
「誰に向いているか」を伝える
商品やサービスを説明する時、企業側はできるだけ多くの人に買ってもらいたいと思います。
その結果、「どなたにもおすすめです」「幅広いニーズに対応します」といった表現になりがちです。
でも、対象が広すぎると、かえって「自分にも合うのだろうか」と分からなくなることがあります。
たとえばホームページ制作なら、「社内にWeb担当者がいない企業」「文章や写真をどう準備すればよいか分からない方」「制作後も相談できる会社を探している企業」というように、どんな人に向いているサービスなのかを伝える。
すると、そこに当てはまる人は「自分向けかもしれない」と判断しやすくなります。
以前取り上げたペルソナ設定ともつながる考え方です。
誰にでも向けた広告より、「こういう人には合っています」と言える広告の方が、結果として安心につながることがあります。
「向いていない人」を伝えるのも一つの方法
すべての人に合うサービスは、ほとんどありません。
だから、「短期間でとにかく安くつくりたい方には、当社は向いていないかもしれません」と正直に伝えることも一つの方法です。
一見すると、お客様を減らしているように感じます。
でも、自分に合わない人には事前に分かってもらえる。そして、自分に合う人には「ここは自分が求めている会社かもしれない」と感じてもらえます。
何でも「できます」と言うより、自分たちが大切にしていることや得意なことを明確にした方が、結果として良いマッチングにつながります。
合わない相手まで無理に集めるより、お互いに納得できる相手と仕事をする方が、長い関係にもなりやすいと思います。
購入後の状態を想像できるようにする
商品では、試着やサンプル、無料体験などがよく使われます。
これらが有効なのは、購入前に少しだけ「買ったあとの状態」を体験できるからです。
「合わなかったらどうしよう」という想像上の不安が、「実際に試したら大丈夫だった」という経験に変わります。
私たちのような制作会社では、ホームページそのものを試しにつくることは簡単ではありません。
でも、過去の事例を見てもらったり、制作の流れを説明したり、事前相談で考え方を伝えたりすることはできます。
完成品を先に見せられない仕事だからこそ、その代わりになる情報をきちんと用意しておくことが大切です。
売るために不安を消すのではなく、判断しやすくする
マッチングリスク意識をマーケティングに使うというと、「お客様の不安をなくして買わせる」という話になりがちです。
でも、私たちは少し違うと思っています。
不安を無理になくすのではなく、判断できる情報を増やすことが大切です。
実績を見せ、価格の考え方を伝え、仕事の流れを説明し、お客様の声を掲載する。さらに、できることだけでなく、できないことや向いていないケースも伝える。
そうすることで、お客様自身が「ここなら自分に合いそうだ」と判断できるようになります。
反対に、「今回は別の会社の方が合いそうだ」と思われることもあるでしょう。
でも、それも悪いことではありません。
合わないまま仕事を始めて、あとから「思っていたのと違った」となる方が、お互いにとって大きな問題です。
広告の仕事は「期待のズレ」を小さくすることでもある
マッチングリスク意識を考えていると、広告の役割について改めて考えさせられます。
広告というと、商品や会社の魅力を大きく見せて、人を呼ぶ仕事だと思われることがあります。
もちろん、魅力を伝えることは大切です。
でも、それだけではないと思っています。
この会社なら何をしてくれるのか。どんな仕事の進め方なのか。どんな人に合っているのか。費用はどのくらいかかるのか。依頼したあとにどんな流れになるのか。
それをできるだけ正しく伝える。
そうすることで、企業側とお客様側の「思っていたのと違った」を減らすことができます。
これは広告やホームページにとって、とても大切な役割です。
マッチングリスク意識から考える広告づくり
マッチングリスク意識とは、「購入したあと、自分に合わなかったらどうしよう」という購入前の不安を表すマーケティング上の考え方です。
お客様が問い合わせない、買わない、契約しない。
そんな時、私たちはつい「商品の魅力が足りなかった」と考えてしまいます。
でも、本当は「良さそうだけれど、自分に合うか分からない」だけなのかもしれません。
だから、もっと強いキャッチコピーを考える前に、「この人は何を不安に感じているんだろう」と考えてみる。
自分に似た事例が見たいのかもしれない。価格の目安が知りたいのかもしれない。問い合わせたあとの流れが知りたいのかもしれない。
そこが分かれば、必要な広告も変わります。
私たちの仕事は、商品を必要以上によく見せることではありません。
お客様が「自分に合うかどうか」を、自分で判断できるだけの情報をつくること。
マッチングリスク意識を知ると、「売るための広告」だけではなく、「安心して選んでもらうための広告」という考え方が見えてきます。
