株式会社間島宣伝事務所

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プロスペクト理論

「今申し込めば5,000円お得です」

と言われるより、

「今申し込まないと5,000円分の特典を受けられません」

と言われた方が、少し気になることがあります。

金額としては、ほとんど同じことを言っています。

それでも「5,000円得をする」と考えるのと、「5,000円分を失う」と考えるのとでは、受け取る感覚が違います。

人は必ずしも、数字だけを冷静に比較して判断しているわけではありません。

利益を得ることよりも、今あるものを失うことに強く反応することがあります。

こうした人の意思決定を考えるうえで知られているのが「プロスペクト理論」です。

広告やマーケティングだけでなく、値段の決め方や経営判断にも関係する、とても興味深い考え方です。

1万円もらう喜びと、1万円失う痛みは同じではない

たとえば、突然1万円をもらったとします。

もちろんうれしいと思います。

では、その翌日に財布から1万円を落としてしまったらどうでしょう。

「昨日もらった1万円がなくなっただけだから、プラスマイナスゼロ」と冷静に考えられる人は、それほど多くないかもしれません。

むしろ、なくした1万円の方が強く気になります。

プロスペクト理論では、このように人は同じ金額でも、利益と損失を同じ大きさには感じないと考えます。

一般に、得をする喜びより、損をする苦痛の方を大きく感じやすい傾向があります。

これが「損失回避」と呼ばれる考え方です。

広告で「損をします」が使われる理由

広告を見ると、

「知らないと損」

「今だけ」

「期間限定」

「この機会を逃すと」

といった表現をよく見かけます。

これは、人が利益よりも損失に反応しやすいことと関係しています。

「このサービスを使えば年間3万円節約できます」と伝えることもできます。

一方で、「このままでは毎年3万円余計に支払っている可能性があります」と伝えることもできます。

後者の方が、自分がすでに損をしているように感じるため、強く意識されることがあります。

広告としては確かに強い表現です。

ただし、だからといって何でも「損します」と言えばいいわけではありません。

不安をあおりすぎる広告にはしたくない

プロスペクト理論を知ると、損を強調すれば人を動かしやすいように思えます。

「今やらないと損です」

「このままでは危険です」

「知らないだけで毎月損しています」

こうした言葉は確かに目を引きます。

でも、私たちは広告をつくる側として、ここには注意が必要だと思っています。

本当は大きな損失ではないのに、必要以上に不安をあおる。

期限があるわけでもないのに「今だけ」と伝える。

たいした問題ではないものを、重大な問題のように見せる。

短期的には反応が取れても、長期的には信用を失います。

損失を伝えるのであれば、本当に存在する損失を分かりやすくすることが大切です。

「何もしないことの損失」は意外と見えにくい

企業の相談では、「やる費用」はよく検討されます。

ホームページをリニューアルするには100万円かかる。

広告を出せば月に10万円かかる。

新しいシステムを導入すれば費用がかかる。

数字が見えるので、慎重になります。

でも、「やらないことで失っているもの」は見えにくいものです。

古いホームページをそのまま使うことで、問い合わせを逃しているかもしれない。

採用ページが弱いことで、本来応募してくれたかもしれない人が離れているかもしれない。

毎日30分の非効率な作業を続けることで、年間ではかなりの時間を失っているかもしれない。

何もしないことは、無料に見えます。

でも、本当に無料とは限りません。

これは以前取り上げた現状維持の心理とも関係します。

「変える費用」だけを見るのではなく、「変えないことで失っているもの」も見る。

経営ではこの両方を考える必要があります。

基準が変わると、得か損かも変わる

プロスペクト理論で面白いのは、人が絶対的な数字だけで判断していないというところです。

自分がどこを基準にしているかによって、得にも損にも感じます。

たとえば、10万円の商品が8万円になっていれば、「2万円得した」と感じます。

でも、最初から8万円の商品だったら、それほど強い得を感じないかもしれません。

反対に、毎月5万円払っていたサービスが6万円になれば、1万円の値上げを強く感じます。

つまり、人は「現在地」や「期待していた状態」を基準にして、その差を判断しています。

広告でも、この基準をどう見せるかによって、価格の印象は変わります。

値引きに慣れると、通常価格が「損」に見えてしまう

これは販売する側にとって注意したいところです。

頻繁に20%OFFのセールをしている商品があったとします。

すると、お客様の中では20%OFFの価格が普通になっていきます。

定価に戻った時、本来の価格なのに「高くなった」「損をする」と感じます。

基準が変わってしまったからです。

だから、値引きは売上をつくる強い方法である一方、使い続けると商品の価格そのものに対する感覚を変えてしまうことがあります。

「セールになるまで待とう」と思われるようになれば、通常価格で買う人は減っていきます。

値引きは単なる価格変更ではなく、お客様の中にある基準価格も動かしているということです。

見積もりにも「基準」が生まれる

私たちのような制作会社でも、見積もりでは似たことがあります。

最初に100万円の見積もりを出した後で、理由なく70万円に値下げしたとします。

お客様にとっては70万円が新しい基準になります。

すると次回100万円の見積もりを出した時、「前回より30万円高い」と感じます。

制作内容が違っていたとしてもです。

だから、値引きをする場合には、その理由を整理することが大切です。

ページ数を減らす。

撮影をお客様側で用意してもらう。

機能を減らす。

作業内容が変わった結果として価格も変わるのであれば、基準が崩れにくくなります。

価格は数字だけではなく、「なぜその価格なのか」まで含めて伝える必要があります。

人は状況によってリスクの取り方も変わる

プロスペクト理論には、もう一つ興味深い特徴があります。

利益が期待できる場面では、安全な選択を好みやすい一方、損失を避けたい場面では、逆にリスクのある選択をしてしまうことがあります。

たとえば、確実に5万円もらえる選択肢と、半分の確率で10万円もらえる選択肢があれば、確実な5万円を選ぶ人は多いでしょう。

ところが、確実に5万円失う選択肢と、半分の確率で10万円失う代わりに半分の確率で損失がゼロになる選択肢なら、「もしかしたら損をしなくて済む方」に賭けたくなることがあります。

人は損失を確定させることを嫌うためです。

これは経営判断でも起こり得ます。

失敗した広告を「もったいないから」で続けていないか

広告を出しているけれど、思ったほど成果が出ていない。

すでに数十万円使っている。

ここでやめると、そのお金が無駄になったように感じる。

だから、もう少し続けよう。

こうした判断には注意が必要です。

すでに使ったお金は、これから続けても戻ってきません。

本来は、「今後さらに費用を使った時に成果が期待できるか」で判断する必要があります。

でも、人は「ここでやめたら損が確定する」と感じると、判断を先延ばしにしたくなることがあります。

広告運用でも、過去にいくら使ったかだけではなく、これから使うお金にどんな意味があるのかを考えた方がいいと思います。

ホームページでは「得」より「困りごとの解消」を伝える

サービスの広告では、メリットばかり書きたくなります。

「売上が増えます」

「問い合わせが増えます」

「業務が便利になります」

もちろん大切です。

でも、人は今感じている不便や損失を解消したいという気持ちにも強く反応します。

たとえば、

「毎月の更新作業に何時間使っていますか」

「せっかく採用ページを見てもらっているのに、会社の雰囲気が伝わらないまま離脱されていませんか」

という問いから始める方法もあります。

ここで大切なのは、怖がらせることではありません。

今起きている問題を見えるようにすることです。

問題が見えれば、改善する意味も理解しやすくなります。

数字を使うなら、実感できる形にする

損失は具体的になるほど理解しやすくなります。

たとえば、

「作業効率が悪いです」

と言われても、それほど強く感じません。

でも、

「毎日30分の作業を年間240日続けると、120時間になります」

と言われれば、見え方が変わります。

広告費でも同じです。

月1万円の無駄なら小さく感じても、年間12万円と考えると違って見えることがあります。

数字は、人を不安にさせるためではなく、今起きていることを理解してもらうために使う。

その方が健全な広告になると思います。

広告は「損を恐れさせる」のではなく「判断材料を見せる」

プロスペクト理論は、人の心理を理解するうえで非常に強い考え方です。

だからこそ、マーケティングでは使い方が重要です。

損失回避を利用して、焦らせる。

不安を大きくする。

決断を急がせる。

そうした方法もできます。

でも、私たちの仕事としては、その方向だけには使いたくありません。

むしろ、今まで見えていなかった損失や機会を、判断できる形にすることに使いたいと思います。

広告を出さないことで何を失っているのか。

ホームページを更新しないことで、どんな機会を逃しているのか。

古いやり方を続けることで、どれだけ時間を使っているのか。

そこを数字や事例で見えるようにする。

その上で「やるか、やらないか」はお客様に判断してもらう。

それでいいと思います。

プロスペクト理論から考える広告づくり

プロスペクト理論は、人が利益と損失を同じようには感じず、特に損失を強く避けようとする傾向などを説明する理論です。

広告では、

「これを買えば得をします」

だけではなく、

「今のままだと何を失っているのか」

という視点も必要になります。

ただし、損を必要以上に大きく見せることは広告の役割ではありません。

私たちが考えたいのは、本当に存在する損失を分かりやすくすることです。

時間。

機会。

問い合わせ。

採用。

作業効率。

広告費。

これらは目に見えにくいことがあります。

だから、そのままにされやすい。

しかし、数字や状況として整理すると、「今まで気づかなかったけれど、実は結構大きい」と分かることがあります。

広告やマーケティングの役割は、良い未来だけを見せることではありません。

今のまま続けた場合と、改善した場合の違いを見えるようにすること。

その違いが分かれば、お客様自身が判断できます。

プロスペクト理論を知ると、人は「何が得られるか」だけではなく、「何を失いたくないか」によっても行動していることが分かります。

だからこそ、広告をつくる時にはメリットだけを考えるのではなく、相手が今、何を失うことを恐れているのか、そして本当に失っているものは何なのか。

そこまで考えてみることが大切なのだと思います。