shimazaki
ペルソナを狙い撃て!「STP分析」の「T」ターゲティングとは
みなさんこんにちは。横浜出身研修生の「シウマイ」です。
今回もマーケティングについてのお話です。
マーケティングの出発地点は「こんな商品が欲しい」という潜在的な需要を見つけ出すことですが、実際に、その需要から生まれた商品がどのような人々に届き、どの程度の売り上げが見込めるのかが定まらなければ、開発に着手することはできません。
そこで、どのような人々をターゲットに選定するかを具体的に考える必要があります。
ここで出てくる考え方が、今回のテーマ「Targeting (ターゲティング)」です。
Targeting ターゲッティング
ターゲッティングは「STP分析」のTにあたります。
まず、市場を調査するにあたって先に解説したセグメンテーションでは市場の人々を年齢や趣味嗜好といった様々な観点で細分化します。
ターゲッティングとは、こうして情報を明らかにされた市場の中から、自社のターゲットとなり得る市場、つまり「勝負する市場」を選ぶことをいいます。
ターゲティングはマーケティングにおいて非常に重要
現在の市場は飽和状態で、モノや情報があふれています。単純に製品の性能が優れているだけでは、市場にあるその他の大量のコンテンツに埋もれてしまい、商品をヒットにつなげるのは難しい状況です。自社製品やサービスのターゲットとなる市場を明確に選ぶことができなければ、販売の戦略を立てることは難しく、顧客の「これが欲しい」といったニーズを発見して満たすことができません。
こうした状況で製品を売るためには、営業・集客・販促などのターゲティングを念入りに行ったうえで、顧客のニーズを深く分析し、特定の層に興味を持ってもらえる戦略を実施するなど、マーケティングを効率化することが大切です。
もちろん、市場には多種多様な顧客層が存在しており、全ての顧客をターゲットとして戦略を立てることは現実的ではありませんから、ここでは自社の製品の強みを活かすことができる市場、あるいは自社のブランドイメージや製品のコンセプトに合っている市場を選択しなければいけません。
こうすることで、自社製品の強みを活かした事業を展開でき、その後のマーケティング戦略を確実なものにすることができます。
また、ターゲティングにおいて市場の大きさを把握することはもちろんですが、競合となる製品やサービスがどの程度の影響力を持っているかを確認することや、その他のマーケティングの妨げとなるような環境要因があるかどうかをきちんと考慮することが必要です。
ターゲッティングのコツ
6つのR
ターゲティングを効果的に行うためには、「6R」の活用が必要不可欠です。
これは、6項目の英語の頭文字を取って名付けられたフレームワークです。
Realistic Scale 有効な市場規模
Rate of Growth 成長性
Rank / Ripple Effect 顧客の優先順位と波及効果
Reach 到達可能性
Rival 競合状況
Response 反応の測定可能性
それではひとつずつ見ていきましょう。
有効な市場規模 Realistic Scale
市場規模をチェックします。市場の規模が大ければ、より多くの売上を期待できます。
とはいえ、あまりにも市場規模が大きすぎると競合他社が多くなり、競争が激化しやすくなる点には注意が必要です。
ですから、あえて規模の小さい市場をターゲットとするのも、マーケティング戦略の1つとして効果的です。一般的な顧客層には該当しない人のニーズにターゲティングできていれば、ニッチな市場で高いシェアを獲得できる可能性があります。ただし、市場規模が小さすぎると得られる利益が少なくなり、
マーケティング戦略を実行する意義が薄くなるため、市場規模の見極めが大切です。
正確な情報を入手するために、各省庁や民間の調査会社などが発表しているデータをもとにチェックを行うことが望ましいです。
成長性 Rate of Growth
市場の売上高やシェア、トレンドなどを把握し、成長性を分析します。
今後の成長が見込まれる場合、小さな市場であっても早期に参入すれば、大きな利益が期待できます。
一方で、分析時には大きな市場であったとしても、衰退している市場や今後の成長が見込まれない市場への参入は控えたいところです。
しかし、投入する製品が市場を独占できるようなものであったり、他の市場も狙えるようなものであれば、参入を考えても良いでしょう。
顧客の優先順位と波及効果 Rank / Ripple Effect
製品の市場における優先順位に注目します。
インフルエンサーがいる市場やメディアが大きく注目する市場などでは商品への関心が集まりやすく、マーケティング戦略を実行した際には高い波及効果や口コミ効果が期待できます。
到達可能性 Reach
自社製品が顧客へと到達する可能性をチェックします。
「サーフィンやダイビング用品を内陸で売ってもあまり儲からない」といったように、たとえ製品の性能が優れていたとしても、地理的要因によりターゲットとする顧客層へ製品を届けられなければ意味がありません。
そのため、ターゲットとする顧客層に到達するためのメディアや広告を確保しておくことが大切です。例としては、SNS・Webサイト・チラシ・動画広告などが挙げられます。
競合状況 Rival
市場にいる競合をチェックします。
競合がすでに大きな地位を占めている市場ではなく、競合他社の少ない市場を選ぶことが理想的です。
こうした市場をブルーオーシャンと呼ぶのに対し、競合他社が多くのシェアを占める市場はレッドオーシャンと呼ばれ、参入した際の成功率は低くなります。
自社製品が市場で地位を築くためには、利益率・費用・サポートなどについて自社と競合他社の状況を比較し、差別化を図ることが大切です。
反応の測定可能性 Response
広告などをのアプローチを行った際に、その効果がどの程度なのかを測定できるのかをチェックします。マーケティング戦略を実行したとしても、顧客の反応や効果を測定できなければ、効果のあった戦略が分からず、もた今後の戦力を改善することもできません。
近年は動画広告やSNSキャンペーンなど、新しく利便性の高いWebマーケティング施策が急増していますが、これらをうまく活用するためには、手法そのものよりもそれぞれの効果を測定し今後の戦略に生かすことです。
反応を測定できる市場であれば、改善案を考えられるだけでなく、良い反応をチームで共有したり企画全体のモチベーションを維持することにも期待できます。
以上、ターゲティングのフレームワークである6Rの各項目を解説しました。6Rを検討する際は、ひとつの項目にこだわり過ぎず、これら6つを総合的に活用することが大切です。
ターゲティングの成功事例
では以上を踏まえて、ターゲティングによって勝負する市場をうまく獲得した事例を見てみましょう。
シーブリーズ
皆さんはシーブリーズを使ったことはありますか?
私の中では、「夏の学校で運動した後の高校生たちがシーブリーズを使って涼んでいる」という絵が浮かんできます。もはや真夏の学生アイテムの代名詞といってもいいかもしれません。
しかしながら、シーブリーズのもともとのターゲットは高校生ではありませんでした。
1980年代のシーブリーズは「マリンスポーツを楽しむ若者」をターゲットとしていました。当時はマリンスポーツが全盛期。そのデザインは海辺の日光でほてった肌をひんやりさせるという効果を狙ったもので、パッケージも「海のそよ風」を意味する「SEA BREEZE」という名前であり、ヨットやウインドサーフィンを連想させる帆のシンボルマークは真夏の海を象徴するものでした。
しかし、時の流れと共に海へ行く人は次第に少なくなり、「海でサーフィンをする若い男性」や「夏にマリンスポーツを楽しむ」といったブランドイメージはしだいに時代遅れとなっていきました。
そこで、資生堂はターゲティング戦略を大きく変更しました。新たなターゲットとして「街にいる女子高生」を選び、汗の臭いを抑えるデオドラント効果に訴求ポイントを設定し、「海」や「マリンスポーツ」、「男性」というイメージからの脱却を図ります。
シーブリーズを「制汗剤」という新たなジャンルでとらえたとき、改めて市場を分析すると、「制汗剤を使う高校生」というニーズが浮かび上がり、特に女子のほうが汗やにおいに気を使っていることが分かりました。
そこで、シーブリーズはターゲット層を「海でマリンスポーツの後に汗を拭く若い男性」から
「部活のあとに汗を拭く、恋する女子高生」に変更したのです。
その後、新たなターゲットのイメージにあわせて、青や白を基本としたデザインはピンクやオレンジなどのパップな色へと生まれ変わり、透き通った透明のボトルは、かばんに入っているとかわいいコスメのような存在となりました。
テレビCMでもイメージに合う若い女性タレントを起用し、さらにティーン雑誌とのコラボなど10代の女子中高生へ浸透するよう多面的なマーケティング戦略を行った結果、シーブリーズはわずか1年で低迷期のなんと8倍にまで売り上げを伸ばすことに成功しました。
QBハウス
QBハウスは、忙しいビジネスマンをターゲットに設定することで成功した理容室として知られています。QBハウスは駅ビルやショッピングモールなど、忙しいビジネスマンでも日々の生活のついでに立ち寄りやすい場所に店舗を構えていることが特徴です。
しかし、QBハウスが台頭する以前の理髪店業界は「単価が高くてもクオリティの高さで勝負する」のが主流でした。
つまり、当時の理髪店のイメージは「時間とお金をかけて身だしなみを整える場所」であり、ビジネスマンにとっては貴重な休日をわざわざ費やして行く場所だったのです。
しかし実際には「多くの時間とお金をかけて質の高い接客をしてもらうよりも、多少クオリティが落ちたとしても短時間で安価にヘアスタイルを整えたい」というニーズを持っている人は少なくありませんでした。特に男性では「カットだけでいいから余分なサービスは要らない」という声が強くありました。
QBハウスはこの点に着目し、「10分1,000円」をキャッチコピーに、忙しいビジネスマンでも休日を犠牲にすることなく、予約の要らない隙間時間で散髪できる新たなビジネスを提供しました。
また、出店場所も「改札を出てすぐ」、「ショッピングモールの出入り口近く」など目立つ場所に限定することで、店舗そのものが広告となり高い集客力を発揮しました。
それに加えて、現在では当初のターゲットであるビジネスマンだけでなく、「長時間美容院にいることが苦手な子ども」や「子育ての合間に自分が美容院に行く時間を確保できない母親」なども利用しやすい環境を整えており、順調に顧客層を拡大しています。
こうしたQBハウスのターゲティングはマーケティング戦略の成功につながり、現在では海外も含めて500店舗以上の理髪店を運営しています。
ターゲッティングで狙い撃ち
ここまでターゲティングについて解説しましたが、重要なことはもちろん「ターゲットを明確にすること」です。これは同時に「全ての人をターゲットにはしない」ことを意味しています。
万人受けするコンテンツを作ろうとすることは、ターゲットを設定していないのと何ら変わりません。戦略の方向性を絞ることができなければ、効果の確認や改善案が定まらず、一貫したマーケティングを行えないため競争力がなくなってしまいます。
そうならないためには、カットに特化したQBハウスのように、ターゲットとなる顧客を具体的に設定することが重要であり、そうした仮想的な顧客のことをペルソナと呼びます。
またペルソナを設定する上では性別や年齢だけでなく、職業やライフスタイル・趣味嗜好を具体的に反映させることで、チームでの認識を共通のものにすることができます。こうすることで、散発的な企画の実施などを防ぎ、必要な開発に注力することにもつながります。
このように、ターゲティングを応用できれば、マーケティング戦略をより効果的に実施することができるのです。