mashima
メラビアンの法則
「お気軽にご相談ください」
そう書いてあるホームページなのに、画面全体が堅く、専門用語ばかりで、問い合わせフォームには入力項目がずらりと並んでいる。
文章では「気軽に」と言っているのに、見た目からはまったく気軽さを感じない。
こんな時、私たちは書いてある言葉よりも、そのサイト全体から受ける印象の方を信じてしまうことがあります。
こうした「言葉と、それ以外の情報が食い違った時の受け取られ方」を考えるうえで、よく知られているのが「メラビアンの法則」です。

「人は見た目が93%」という意味ではない
メラビアンの法則については、
「人の印象は、言葉が7%、声が38%、見た目が55%で決まる」
と紹介されることがあります。
そこから、「話の内容は7%しか重要ではない」「コミュニケーションは93%が非言語情報」と説明されることもあります。
ただ、これは少し広く解釈されすぎています。
もともとの研究は、好意や感情を伝える場面で、言葉と声の調子、表情などが矛盾した場合に、人がどの情報を重視するのかを調べたものです。
つまり、どんな会話でも「言葉は7%しか意味がない」という話ではありません。
たとえば、住所や料金、契約条件を説明する時には、当然ながら言葉そのものが重要です。
大切なのは、言っていることと、見せ方や話し方が食い違った時に、人は言葉以外の情報から本音を読み取ろうとするという点です。
この考え方は、広告やデザインにもかなり関係していると思います。
「安心です」と書くだけでは安心してもらえない
広告では、よく「安心」「信頼」「親しみやすい」といった言葉を使います。
でも、言葉だけでその印象をつくることはできません。
「安心してご相談ください」と書かれていても、写真が暗く、文章が難しく、問い合わせ方法も分かりにくければ、見る人は安心できません。
逆に、「親しみやすい会社です」と書いていなくても、スタッフの自然な写真があり、文章が分かりやすく、問い合わせまでの流れが丁寧なら、自然と親しみやすさを感じます。
つまり、広告では言葉だけで約束しても足りません。
デザインや写真、文章の調子、使いやすさまで含めて、同じことを伝えている必要があります。
デザインは「言葉以外のメッセージ」
私たちがデザインをつくる時、色や写真、書体、余白を選びます。
それらは装飾ではありません。
すべて何かを伝えています。
たとえば、余白が大きく、写真を丁寧に見せるデザインからは、落ち着きや上質さを感じることがあります。
反対に、大きな価格表示や強い色、たくさんの商品を並べれば、活気やお得感が伝わりやすくなります。
どちらが良い悪いではありません。
問題は、言葉と合っているかどうかです。
「上質なサービス」と言いながら、紙面が値引き情報で埋め尽くされていれば、どちらを信じればよいのか分からなくなります。
「地域に寄り添う会社」と言いながら、どこかで見たような外国の写真ばかりが並んでいても、少し違和感があります。
メラビアンの法則から考えると、この「一致していること」がとても大切です。
ホームページでは、文章より先に雰囲気を感じている
ホームページを開いた瞬間、すべての文章を読む人はほとんどいません。
まず全体を見ます。
写真、色、文字の大きさ、余白、画面の動きなどから、「どんな会社なのか」をなんとなく感じ取ります。
そのあとで文章を読みます。
つまり、文章を理解する前に、すでに印象がつくられています。
たとえば、歴史のある製造業の会社であれば、技術力や誠実さが伝わる写真や構成が必要かもしれません。
美容院なら、技術説明だけでなく、店内の空気感やスタッフの雰囲気も重要です。
介護や医療なら、派手さよりも安心感や分かりやすさが求められます。
同じ「ホームページ」でも、会社によって見せるべき空気は違います。
だから、デザインは最後に見た目を整える作業ではありません。
最初から「どんな印象を持ってほしいのか」を考える必要があります。
採用では、特に言葉と見た目の一致が重要
採用サイトでも、メラビアンの法則を考える場面があります。
「社員同士のコミュニケーションを大切にしています」と書かれているのに、社員の写真が一枚もない。
「若手が活躍できる会社です」と書いているのに、働いている姿がまったく見えない。
「自由な社風です」と伝えながら、サイト全体が非常に堅く、会社からの一方的な説明だけになっている。
これでは、求職者は言葉よりも見た目の印象を信じるかもしれません。
採用では、会社が言いたいことより、「実際にそう見えるか」が重要です。
だから、働いている人の写真やインタビュー、実際の仕事風景などが意味を持ちます。
言葉を証明する材料が必要なのです。
営業でも、言葉より態度が伝わることがある
これは対面の営業でも同じです。
「何でも相談してください」と言いながら、相手の話を途中で遮る。
「急いでいませんので」と言いながら、契約を急かす。
「お客様に合ったものをご提案します」と言いながら、自社の商品ばかり説明する。
言葉では良いことを言っていても、声の調子や態度が違っていれば、相手はその違和感を感じます。
むしろ、「言っていることと本音が違うのでは」と思われてしまいます。
コミュニケーションでは、言葉を整えるだけでなく、態度がそれを裏切っていないかも重要です。
写真は文章以上に強いことがある
広告をつくる時、写真には大きな力があります。
たとえば、「地域密着の会社です」と100文字説明するより、地元のお客様と話している一枚の写真の方が、早く伝わることがあります。
「丁寧なものづくり」と書くより、職人の手元をしっかり撮った写真の方が説得力を持つこともあります。
言葉は意味を説明できます。
写真は空気や感情を伝えます。
どちらか一方ではなく、両方が同じ方向を向いた時に、広告は強くなります。
見た目だけ良くしても意味がない
ここで注意したいのは、「メラビアンの法則があるから、とにかく見た目を良くすればいい」と考えないことです。
それも違います。
どれだけきれいなホームページでも、内容が分からなければ問い合わせにはつながりません。
写真が素晴らしくても、料金やサービス内容が分からなければ判断できません。
広告には、言葉が必要です。
見た目も必要です。
そして、その二つが一致していることが必要です。
「7%しかないから文章は適当でいい」ではなく、むしろ言葉とデザインを一緒に考える必要があります。
自社らしさは、言葉だけではつくれない
会社のブランドを考える時、キャッチコピーを考えることがあります。
でも、良いキャッチコピーが一つできればブランドが完成するわけではありません。
たとえば、「丁寧に考える会社」という言葉を掲げたなら、ホームページも、見積書も、打ち合わせも、納品物も丁寧でなければいけません。
言葉だけが先行すると、かえって違和感になります。
私たち自身も、印刷物やホームページを「しっかり考えてつくる」と伝えるのであれば、提案の過程まで含めて、その言葉に合った仕事をする必要があります。
広告でつくった印象は、実際の仕事によって証明されます。
広告では「何を言うか」と「どう見えるか」を一緒に考える
広告制作では、文章を先につくって、あとからデザインを当てはめるだけでは十分ではないと思っています。
言葉で何を伝えるのか。
どんな写真を使うのか。
どんな色や書体にするのか。
どのくらい余白を取るのか。
それらを一緒に考えることで、初めて一つのメッセージになります。
親しみやすい会社なら、文章だけでなく写真やデザインも親しみやすくする。
技術力が強みなら、それが伝わる現場や製品を見せる。
高品質を伝えるなら、細部まで雑に見えないようにする。
一つひとつの要素に矛盾がないようにすることです。
メラビアンの法則から考える広告づくり
メラビアンの法則は、「コミュニケーションの93%は見た目と声で決まる」という万能な法則ではありません。
言葉と表情や声などが食い違った時、人は言葉以外の情報を重視する傾向があることを示したものです。
この前提を理解すると、広告にも大切なことが見えてきます。
「安心」と書けば安心になるわけではない。
「信頼」と書けば信頼されるわけではない。
「親しみやすい」と書けば親しみやすくなるわけでもない。
その言葉と同じ印象を、写真やデザイン、実際の対応まで含めて伝える必要があります。
私たちの仕事は、文章をつくることでも、見た目をきれいにすることでもあります。
でも、本当はその両方を合わせて、同じ意味を伝えることが大切です。
言葉で「こういう会社です」と言う。
そして、見た瞬間にも「確かにそういう会社だ」と感じてもらう。
さらに実際に相談してみても、その印象が変わらない。
そこまで一致している会社は強いと思います。
メラビアンの法則を広告の視点から考えると、人は言葉だけではなく、言葉と一緒に伝わってくるすべての情報から、その会社を判断しているということを、あらためて意識させられます。
