mashima
返報性の原理
お店で試食をもらったあと、何となくその商品が気になったことはないでしょうか。
店員さんが丁寧に説明してくれたり、無料で少し味見をさせてもらったりすると、「せっかくだから買っていこうかな」という気持ちになることがあります。
もちろん、必ず買うわけではありません。
でも、人から何かをしてもらうと、「自分も何か返したい」と感じることがあります。
こうした心理は「返報性の原理」と呼ばれています。
日常の人間関係だけでなく、営業や広告、マーケティングにも深く関係する考え方です。

人は「してもらったこと」を意外と覚えている
商売では、どうしても「買ってください」「問い合わせてください」とお願いする側になりがちです。
でも、まだ何の関係もない会社から突然「お問い合わせください」と言われても、お客様には行動する理由がありません。
そこで大切になるのが、先に何かを渡すという考え方です。
役立つ情報を提供する。分からないことを丁寧に説明する。簡単な相談なら無料で答える。お客様がまだ発注すると決めていない段階でも、少し役に立つ。
そうした経験があると、その会社に対する印象が変わります。
「ここなら相談しても大丈夫そうだ」
「何かあったら一度聞いてみよう」
そんな気持ちが生まれることがあります。
返報性の原理を仕事で考えるなら、この「最初に価値を渡す」という部分が一番重要だと思います。
ブログを書くことも、一つの返報性
私たちも自社のホームページで、広告やデザイン、マーケティングについてブログを書いています。
記事を読んだからといって、すぐに仕事を依頼してもらえるわけではありません。
それでも、ホームページをつくる時に知っておいた方がよいことや、印刷物を考える時のポイント、広告や心理についての考え方などを発信しています。
これは、すぐに売上につながるものではありません。
でも、困った時に検索して記事を読み、「この会社はこういうことまで考えて仕事をしているんだ」と知ってもらえる。
それだけでも意味があります。
広告は、商品を売るためだけのものではありません。
まだお客様ではない人に、先に役立つものを渡しておくことも広告だと思います。
無料だから価値がないわけではない
マーケティングでは、無料資料や相談、サンプルなどがよく使われます。
無料というと、どうしても「サービスであげるもの」という感覚になりますが、本来は無料だからこそ中身が大切です。
内容が薄ければ、「無料だからこの程度か」で終わります。
反対に、「ここまで教えてくれるのか」と思ってもらえる内容であれば、その会社への信頼につながります。
無料で渡すものほど、その会社の考え方が見えることがあります。
私たちであれば、制作の相談を受けた時に、「全部つくり直した方がいいです」とすぐに仕事へつなげるのではなく、今あるものを活かせるなら、その方法をお話しすることがあります。
結果としてすぐ仕事にならなくても、その方がお客様にとって良いなら、それでいいと思っています。
そういう積み重ねが、あとで別の相談につながることもあります。
返報性は「貸しをつくる」ことではない
ここで注意したいのは、返報性の原理を「先に何かを与えて、相手に断りにくくさせる方法」と考えないことです。
「無料でここまでやったのだから契約してください」
「せっかく提案したのだから発注してください」
そんな空気が出た瞬間に、相手は負担を感じます。
それでは親切ではなく、交換条件になってしまいます。
本当に大切なのは、返してもらうことを前提にしすぎないことです。
まず役に立つ。
まず知ってもらう。
まず信頼してもらう。
その結果として、必要な時に思い出してもらえればいい。
長く仕事を続けるなら、そのくらいの距離感の方が自然だと思います。
営業でも「売る前に聞く」
営業というと、自社の商品やサービスを説明することを思い浮かべます。
でも、最初から説明ばかりすると、相手は売り込まれているように感じます。
それより先に、その会社が何に困っているのかを聞く。
今どんなものを使っているのか、何がうまくいっていないのか、本当に新しくする必要があるのかを考える。
場合によっては、「今は変えなくてもいいと思います」という結論になることもあります。
それでも、相手にとって役立つ時間になれば、その相談自体に価値があります。
営業は、契約を取ることだけではありません。
相手が判断するための材料を渡すことも営業です。
Webサイトも、先に答えを渡す
ホームページでも返報性の考え方は使えます。
よくある質問を充実させる。
費用の考え方を分かりやすく説明する。
業界の専門用語を解説する。
依頼する前に準備しておくことを紹介する。
こうした情報は、まだ問い合わせていない人にも役立ちます。
そして、読んだ人にとっては、「問い合わせしないと何も教えてくれない会社」より、「問い合わせる前からいろいろ教えてくれる会社」の方が安心しやすくなります。
特に専門的なサービスほど、お客様には分からないことが多くあります。
その不安を少し減らしてあげることが、最初の価値提供になります。
見積もりや提案にも価値がある
私たちのような制作会社では、見積もりを出す前に内容を整理したり、方向性を考えたりすることがあります。
単に「ホームページ一式○○円」と出すのではなく、なぜこの構成が必要なのか、何を改善するのかを考えて提案する。
その時点では、まだ仕事になるかどうか分かりません。
でも、お客様にとっては、考えを整理する材料になります。
そこで「ここまで考えてくれた」という印象があれば、価格だけではない判断につながります。
もちろん、無料提案を際限なく続ける必要はありません。
ただ、契約前だから何も考えないのではなく、できる範囲で相手の役に立つ。
そこに返報性の原理が自然に働くのだと思います。
地域の商売ほど、返報性は長く残る
地域で仕事をしていると、すぐに売上にならなかった相談が、何年か後に仕事につながることがあります。
以前少し相談した。
イベントで話を聞いた。
ブログを読んだことがある。
知り合いから「あそこは相談しやすい」と聞いた。
こうした小さな接点が残っています。
地域の商売では、一度の広告ですぐに買ってもらうことより、「困った時に思い出してもらえる会社」になる方が大切なこともあります。
そのためには、普段から小さな価値を渡し続けることです。
役立つ情報でもいい。
丁寧な対応でもいい。
ちょっとしたアドバイスでもいい。
そうしたものが会社の印象をつくっていきます。
「もらったから返す」より「役に立ったから頼む」
返報性の原理をマーケティングに使うと考えると、少し打算的に聞こえるかもしれません。
でも、私たちはもっと単純に考えていいと思います。
役に立つ会社であれば、また相談したくなる。
丁寧に教えてくれた人には、次も聞きたくなる。
困っている時に助けてもらった会社は、必要になった時に思い出す。
それは「借りを返さなければ」ということよりも、信頼が少しずつ積み上がっている状態です。
だから、返報性の原理を意識するなら、何を返してもらうかより、「こちらから何を渡せるか」を考える方がいいと思います。
返報性の原理から考える広告づくり
返報性の原理とは、人から何かをしてもらった時に、自分も何か返したいと感じる心理です。
マーケティングでは、試供品や無料相談、役立つ情報などに応用されることがあります。
でも、単なる販売テクニックとして使うと、すぐに見透かされます。
先に無料で何かを渡し、その代わりに契約を求める。
それでは、本当の意味での信頼にはなりません。
私たちが広告やホームページをつくる時に考えたいのは、もっと長い関係です。
まだお客様ではない人にも、少し役立つ。
依頼するか分からない人にも、分かる範囲で説明する。
仕事にならない相談でも、必要なら別の方法を伝える。
そうした積み重ねの中で、「何かあった時はこの会社に聞いてみよう」と思ってもらえる。
広告とは、こちらの言いたいことを一方的に届けるものではありません。
こちらから先に価値を渡すこともできます。
「買ってください」とお願いする前に、「何か役に立てることはないか」と考える。
返報性の原理を仕事に活かすなら、その姿勢が一番大切なのだと思います。
