mashima
フット・イン・ザ・ドア
「ホームページを全部つくり直したいわけではないんですが、ここの文章だけ直せますか?」
そんな小さな相談から仕事が始まることがあります。
最初は一部分の修正だけだったのに、やり取りを重ねるうちに、「せっかくなので採用ページも見てもらえますか」「会社案内も少し古くなっていて……」と相談が広がっていく。
これは制作会社に限った話ではありません。
人は、一度小さな依頼や行動を受け入れると、その後の少し大きな依頼も受け入れやすくなることがあります。
こうした心理を「フット・イン・ザ・ドア」と呼びます。
名前の通り、まずドアの隙間に足を入れ、そこから少しずつ関係を進めていくイメージです。

最初から大きな決断を求めると、人は構える
たとえば、初めて会った会社からいきなり「100万円のホームページをつくりませんか」と言われたら、多くの人は慎重になります。
本当に必要なのか。この会社に頼んで大丈夫なのか。費用に見合うのか。
判断しなければならないことが多いからです。
一方で、「まず現在のホームページを一緒に見てみませんか」くらいであれば、少し相談しやすくなります。
大きな決断には、大きな不安があります。
だから、最初から最終的な契約だけを求めるのではなく、その前に小さな行動を用意しておくことには意味があります。
「資料を見る」「相談する」も小さな一歩
Webサイトでも同じです。
訪問したばかりの人に、いきなり「お問い合わせください」と求めても、まだそこまで気持ちが進んでいないことがあります。
その前に、制作実績を見る。
ブログを読む。
料金の考え方を確認する。
無料の相談をしてみる。
こうした小さな行動を重ねるうちに、その会社に対する理解が少しずつ深まります。
「知らない会社」だったものが、「何となく考え方が分かる会社」になり、さらに「一度相談してみてもいい会社」へ変わっていきます。
私たちがブログを書く意味も、こういうところにあると思います。
記事を読んだからといって、すぐ仕事になるわけではありません。
でも、その人にとって最初の小さな接点にはなります。
人は、自分の行動と矛盾したくない
フット・イン・ザ・ドアが起こる背景には、人が自分の行動に一貫性を持たせようとする心理があります。
一度「この会社の話を聞いてみよう」と行動した人は、次の行動にも少し進みやすくなります。
一度商品を試した人は、購入を検討しやすくなる。
一度イベントに参加した人は、次のイベントにも参加しやすくなる。
一度相談した会社には、再び相談しやすくなる。
最初の行動によって、「自分はこれに興味がある」という感覚が生まれるからです。
もちろん、必ず次の行動につながるわけではありません。
でも、何も関係がない状態から、いきなり大きな決断を求めるより自然です。
私たちの仕事も、小さな依頼から始まることがある
広告やデザインの仕事では、最初から大きな案件だけを狙う必要はないと思っています。
名刺の修正。
チラシの一部分の変更。
ホームページの文章修正。
古くなった写真の差し替え。
そうした小さな仕事から関係が始まることがあります。
実際に一度仕事をすると、納期を守るのか、話をきちんと聞いてくれるのか、どんな提案をする会社なのかが分かります。
お客様にとっても、制作会社を知る機会になります。
その経験が良ければ、「次はもう少し大きな仕事もお願いしてみよう」と思ってもらえるかもしれません。
これはテクニックというより、信頼の積み重ねです。
広告でも、最初のハードルを下げる
広告を見る人すべてが、「今すぐ買いたい人」ではありません。
まだ興味を持ち始めたばかりの人もいます。
そんな人にいきなり購入や契約を求めると、負担が大きくなります。
だから、まずは詳しい情報を見る。事例を確認する。資料を請求する。相談してみる。
こうした段階を用意することが大切です。
広告からいきなりゴールへ飛ばすのではなく、その途中に小さな入口をつくる。
Webサイトの導線設計でも、この考え方はよく使えます。
「無料相談」が有効なのも、最初の一歩だから
無料相談や体験サービスも、フット・イン・ザ・ドアと相性があります。
本契約は大きな決断でも、「まず話を聞いてみる」なら動きやすい。
実際に話してみて、必要性を感じればその先へ進む。
必要がなければそこで終わる。
お客様にとっても、自分に合うか確認する機会になります。
ただし、無料相談を「契約させるための入口」としか考えないと、相手にも伝わります。
相談した瞬間から強い営業をされれば、「話を聞くだけのつもりだったのに」と警戒されます。
最初の一歩が小さいからこそ、その約束は守った方がいいと思います。
小さなYESを無理につくらない
フット・イン・ザ・ドアは、マーケティングのテクニックとして「まず小さなYESを取る」と説明されることがあります。
でも、その言い方には少し注意が必要です。
「一度YESと言わせれば、その後も断りにくくなる」という使い方をすれば、相手を追い込む方法になってしまいます。
私たちの仕事で大切なのは、小さなYESを集めることではありません。
小さな安心を積み重ねることです。
記事を読んで役に立った。
相談したら丁寧に話を聞いてくれた。
小さな修正を頼んだら、きちんと対応してくれた。
その経験があるから、次も頼みやすくなる。
この方が自然です。
大きな契約より、最初の接点を考える
企業はどうしても、売上につながる大きな行動ばかり考えます。
「問い合わせを増やしたい」
「契約を増やしたい」
「商品を買ってほしい」
もちろん最終的な目的としては大切です。
でも、その前にお客様は何をするのかを考えてみる必要があります。
広告を見る。
ホームページを訪れる。
会社名を検索する。
実績を見る。
ブログを読む。
そこで少し安心してから問い合わせる。
こうした流れがあります。
最終的な「契約」だけを見るのではなく、その一つ前、そのまた一つ前の行動を考える。
それがフット・イン・ザ・ドアの考え方を、広告やWebサイトに活かす方法だと思います。
地域の仕事ほど、小さな接点が後につながる
地域で仕事をしていると、初めて会った時には何も仕事にならなかった人から、何年か後に相談をもらうことがあります。
イベントで少し話した。
以前、名刺だけお願いした。
ブログを読んだ。
知り合いから名前を聞いた。
その程度の接点でも、人の記憶には残ります。
そして何か困った時に、「そういえば、あの会社があったな」と思い出してもらえる。
地域で仕事をするなら、すぐに大きな仕事につながるかどうかだけで判断しない方がいいのかもしれません。
小さな関係を丁寧につくっておくことが、後になって大きな意味を持つことがあります。
フット・イン・ザ・ドアから考える営業と広告
フット・イン・ザ・ドアとは、最初に小さな依頼や行動を受け入れることで、その後の少し大きな行動にも進みやすくなる心理的な傾向です。
営業や広告では、いきなり大きな決断を求めないことの大切さを教えてくれます。
初めて知った会社に、いきなり発注するのは難しい。
だから、まず知ってもらう。
次に考え方を理解してもらう。
少し相談してもらう。
小さな仕事を任せてもらう。
その一つひとつで信頼を積み重ねる。
私たちのような制作会社の場合も、「最初からホームページ一式を頼んでください」と考える必要はないと思っています。
名刺一枚でも、チラシ一枚でも、ちょっとした相談でもいい。
その小さな仕事をきちんと行うことが、次の相談につながるかもしれません。
フット・イン・ザ・ドアを単なる「小さなYESを取るテクニック」と考えるより、最初から大きな決断を求めず、小さな信頼を積み重ねる考え方として捉える。
その方が、私たちの仕事にも合っていると思います。
